『六本木クラス』は本家『梨泰院クラス』を抜き、その本家を1位に押し上げた

リメイクが出ると、本家が食われる。そう思っていました。

『六本木クラス』で起きたのは、逆でした。本家を抜いたうえで、本家を1位に押し上げています。

まず、リメイクが本家を抜いた

『六本木クラス』は2022年、テレビ朝日で放送された『梨泰院クラス』の日本版リメイクです。竹内涼真主演。地上波の放送が終わった深夜0時からNetflixで配信されるという、テレビ朝日として初めての形でした。

2022年8月6日、Netflixの「今日のTV番組TOP10(日本)」がこうなります。

順位 作品
2位 六本木クラス(日本版リメイク)
3位 梨泰院クラス(韓国・本家)

リメイクが本家の上に来ました。

そこからさらに上がります。放送翌日の8日は3位、9日は2位、10日以降は1位を維持。週間の視聴時間でも、前週5位から1位に上がりました。

日ごとの順位を並べると、こうです。

『六本木クラス』Netflix日本「今日のTV番組TOP10」の順位
8/6: 2位2位8/68/8: 3位3位8/88/9: 2位8/98/10: 1位1位8/10

8/6 2位 / 8/8 3位 / 8/9 2位 / 8/10 1位

8日にいったん3位へ落ちてから、上がり直しています。放送直後の勢いではなく、日が経つほど上がった形です。 配信作品では珍しい動き方で、口コミが効いているときのグラフの形をしています。

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『六本木クラス』が到達したNetflix日本の週間視聴時間ランキング(前週は5位)

地上波でも第1話の世帯視聴率9.6%。見逃し配信はテレビ朝日史上最速で200万再生に達しています。

ここからが本題:本家も1位になった

普通ならこう考えます。リメイクを見た人は、もう本家を見ない。パイの奪い合いになる、と。

そうなりませんでした。

『梨泰院クラス』が、Netflixで「逆走1位」を記録しています。

2020年配信の作品です。2年前の韓国ドラマが、日本版リメイクの放送をきっかけに、もう一度1位に戻りました。報道では「日本独自の現象」と書かれています。

リメイクは本家を食わない。本家を連れてくる

理由は想像がつきます。リメイクで話を知った人が「本家はどうなってるんだ」と見に行く。答え合わせをしたくなる。同じ話を2回見ることが、この場合は損になりません。むしろ2回目のほうが面白がれます。

旧作が死なない構造と、つながっている

このブログでは前に、Netflixの上半期レポートを数えてこう書きました。

2023年以前に配信された韓国語シリーズ148本が、韓国語シリーズの視聴時間の22.6%を稼いでいる。

『愛の不時着』は配信から6年8か月たった2026年上半期でも7,530万時間見られています。韓国ドラマの旧作は死にません。

でも、旧作がただ棚に置いてあるだけでは、ここまで動きません。思い出させる何かが要ります。

『六本木クラス』がやったのは、まさにそれです。リメイクという形で本家に光を当て直し、2年前の作品を1位に押し戻した。旧作の在庫を、現金化する装置として働いています。

この「在庫」がどれくらい大きいかも、数字で置いておきます。

上半期のシリーズ視聴時間743億5,400万時間のうち、46.3%はNetflixの自社作品ではなく、他所から借りている作品です。本数でいうと4,053本。棚の半分近くが、よそで作られた過去の作品で埋まっています。

Netflix自社作品52.7%(シリーズ視聴時間に占める割合)
借りている作品46.3%(シリーズ視聴時間に占める割合)

韓国作品でいちばん分かりやすい例が『女神降臨』です。2020年のtvNのドラマで、Netflixのオリジナルではありません。それが上半期に1億3,220万時間、全体53位に入っています。上半期の韓国語新作20本の1本あたり(1億3,650万時間)とほぼ同じ数字を、6年前の他局のドラマが出しているわけです。

配信の棚の半分近くは「借りている過去の作品」。そこに光を当てる装置は、それ自体が価値を生む

起きたこと
リメイク(六本木クラス) 日本のTOP10で1位
本家(梨泰院クラス・2020年) 2年後に「逆走1位」

だから日本のリメイクは続いている

前に『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の日本リメイクについて書きました。あれを「安易な焼き直し」と見る向きもあります。

数字を見ると、そう単純ではありません。リメイクは、本家と自作の両方を動かします。

  • リメイク自体が日本のTOP10で1位を取る
  • 本家の旧作が、もう一度TOP10に戻る
  • 見る側は「答え合わせ」という新しい楽しみ方を手に入れる

このブログでは「日本の課題は次の1本が続かないこと」だと繰り返し書いてきました。リメイクは、その続かなさを補う一つの形です。ゼロから当てるより打率が高く、しかも本家の旧作まで動かせる。

ただし、これは日本で起きた現象です。『六本木クラス』が世界のTOP10で本家を抜いた、という話ではありません。国内での動き方の話として読んでください。

「1例だけの話では?」への答え

正直に書くと、これは1つのリメイクで起きた1つの現象です。「リメイクは本家を連れてくる」と一般化するには、例が足りません。

確かめ方を書いておきます。

見ること 本家を連れてくるなら 食い合うなら
リメイク放送中の本家の順位 本家も同時に上がる 本家は動かないか下がる
リメイク終了後の本家 放送前より高い位置で落ち着く 元の位置に戻る
日本以外でも同じことが起きるか 他国のリメイクでも再現する 日本だけの現象で終わる

3つめが、いまのところいちばん分からない部分です。報道が「日本独自の現象」と書いたのは、他の国では確認されていないという意味でもあります。日本の視聴者が「答え合わせ」を好むのか、それともリメイクの作り方が良かったのか。ここは分けられていません。

あなたは『六本木クラス』を見たあと、『梨泰院クラス』を見ましたか。逆の順番で見た人もいるはずです。 どちらから入ったかで、面白さの種類が変わるはずで、そこは数字では出てきません。コメントで教えてもらえたら嬉しいです。

なお、世界の数字で見ると話はまったく別になります。『六本木クラス』と『梨泰院クラス』を世界の物差しで並べると15倍以上の差があります。それは明日の記事で書きます。

ここで数字を一段深く読む

この動きで面白いのは、視聴者がどちらか一方だけを選んだのではなく、比較するために二作品を行き来した可能性が見える点です。リメイクは原作の代用品ではなく、原作をもう一度発見させる入口にもなります。順位の入れ替わりを勝敗だけで読むと、この循環を見落とします。

ここで大切なのは、リメイクと原作の関係を一つの数字だけで断定しないことです。視聴時間は、人が作品に触れた総量を知るには便利ですが、満足度や完走率、作品を好きになった人数を直接表すものではありません。順位も同じで、比較対象と期間が変われば意味が変わります。この記事で挙げた数字は、作品を採点する答えではなく、何が起きたのかを考える手がかりです。

『六本木クラス』と『梨泰院クラス』についても、「多いから成功」「少ないから失敗」と二択にすると、いちばん面白い部分が消えてしまいます。まず配信された範囲を確認し、次に公開時期と総尺を見て、最後に同じ条件の作品と比べる。この順番なら、数字の印象に引っ張られにくくなります。反対に、条件をそろえないまま大きな作品と小さな作品を並べると、配信規模の差を作品の質の差だと誤読してしまいます。

読者の立場で確かめられること

専門的な集計をしなくても、見る側にできる確認はあります。作品名と一緒に語られる数字を見たら、「いつの集計か」「日本だけか世界全体か」「時間か視聴数か」の三つを確かめてください。三つのうち一つでも曖昧なら、その数字は結論ではなく途中経過です。

もう一つは、『六本木クラス』と『梨泰院クラス』を単独で見ないことです。前後に公開された作品、同じシリーズ、同じ作り手の作品へ視野を広げると、一本では見えなかった流れが出ます。新作が旧作を押し上げることもあれば、旧作の評判が新作の初速を支えることもあります。配信サービスでは作品が放送終了と同時に消えず、棚に残り続けるため、この相互作用が長く続きます。

私が数字を数え直すときも、最初に抱いた印象と、条件を確認した後の結論が同じとは限りません。大きな倍率や順位は見出しにしやすい一方で、本当に持ち帰るべきなのは、その数字が生まれた仕組みです。この記事でリメイクと原作の関係に焦点を当てたのも、作品を持ち上げたり下げたりするためではなく、同じ数字から雑な結論を作らないためです。

この作品から次に見たいもの

今後を見るときは、公開直後の最高順位だけでなく、数週間後、数か月後にどれだけ残るかにも注目したいところです。一度大きく跳ねる作品と、長く選ばれ続ける作品は、どちらも強い。ただし強さの種類が違います。短期の話題性と長期の持続性を分けて追うと、『六本木クラス』と『梨泰院クラス』の位置づけがよりはっきりします。

そして、次の公式データが出たときに今回と同じ条件で比べること。新しい数字だけを眺めるのではなく、今回の値を基準点として変化を見ることで、推測が検証に変わります。あなたは作品を見るとき、公開直後の話題を重視しますか。それとも、時間がたっても残る評判を重視しますか。

まとめ

  • 『六本木クラス』はNetflix日本のTOP10で2位、本家『梨泰院クラス』の3位を上回った
  • その後1位を維持し、週間視聴時間でも5位から1位
  • 同時期、2020年の本家『梨泰院クラス』が「逆走1位」を記録
  • リメイクは本家を食わない。本家を連れてくる
  • 韓国ドラマの旧作148本が22.6%を稼ぐ構造は、こうした「思い出させる装置」で動いている
  • 配信の棚は、視聴時間の46.3%が他所から借りている作品。旧作の在庫はそれだけ大きい
  • ただしこれは日本で起きた1例。他国のリメイクでも再現するかは、まだ分かっていない

数字の出典

  • Netflix日本TOP10で六本木クラス2位・梨泰院クラス3位、その後の1位維持、週間視聴時間の5位→1位、地上波の初回世帯視聴率9.6%、見逃し配信200万再生 — ORICON NEWS / ORICON NEWS
  • 『梨泰院クラス』の「逆走1位」 — ENCOUNT
  • 旧作148本の22.6%、『愛の不時着』7,530万時間、自社作品52.7%/借りている作品46.3%、『女神降臨』1億3,220万時間(全体53位) — Netflix「What We Watched」2026年上半期レポート(公開されているデータ一覧を当ブログで全数集計)

順位はいずれも日本国内のランキングです。世界のランキングの話ではありません。


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