『六本木クラス』は『梨泰院クラス』の15分の1だった——ただし、この2本は同じ棚に並んでいない

前回、『六本木クラス』が日本のTOP10で本家『梨泰院クラス』を抜き、しかもその本家を「逆走1位」に押し上げた話を書きました。2022年の、日本国内の、週間の順位の話です。

今回は物差しを変えます。2026年上半期・全世界・視聴時間で数え直すと、まったく違う景色になります。

『六本木クラス』は、韓国ドラマ『梨泰院クラス』の日本リメイクです。2022年にテレビ朝日で放送され、その後Netflixにも並びました。

原作にあたる『梨泰院クラス』は、2020年にNetflixで配信された韓国ドラマの代表作のひとつです。

この2本が、いま同じNetflixの棚に並んでいます。どちらがどれだけ見られているのか。公式の視聴データで数え直しました。

15.3
『梨泰院クラス』が『六本木クラス』より多く見られている倍率(2026年上半期)

数字を並べる

Netflixが半年に一度出している視聴データの一覧表を全部ダウンロードして、1本ずつ数え直しました。2026年1月〜6月のシリーズは8,195本です。

『梨泰院クラス』 『六本木クラス』
配信開始 2020-01-31
上半期の視聴時間 1,680万時間 110万時間
総尺 18時間26分 10時間28分
視聴数 90万 10万
全地域で配信 あり なし

視聴時間で15.3倍、視聴数で9倍の差がついています。

梨泰院クラス16.8百万時間(2026年上半期)
六本木クラス1.1百万時間(2026年上半期)

しかも『梨泰院クラス』は2020年1月の作品です。6年前の作品が、4年前のリメイクの15倍見られている。

差の半分は「作品の出来」の話ではない

ここが今日いちばん言いたいところです。

表のいちばん下を見てください。『梨泰院クラス』は全地域で配信されていて、『六本木クラス』はされていません。

つまり、この2本は同じ土俵に立っていません。片方は世界中の棚に並んでいて、片方は限られた地域にしかない。15.3倍という差を「リメイクが劣っていたから」と読むのは、順番が違います。

自前集計では、この差は個別の作品の話ではなく構造でした。

言語 本数 世界配信 比率
日本語 1,313本 212本 16%
韓国語 605本 258本 43%

日本語の作品は韓国語の2.2倍つくられているのに、世界に出ているのは6本に1本だけです。『六本木クラス』は、その多数派の側にいます。

リメイクが原作に勝てなかった、という話の前に、そもそも同じ場所で勝負していないという事実があります

物差しを変えると、勝敗がひっくり返る

ここで前回の記事と突き合わせます。同じ2本の話なのに、結論が逆になります。

物差し いつ・どこ 勝っているのは
日本の「今日のTV番組TOP10」 2022年8月・日本 六本木クラス(2位 vs 3位)
Netflix日本の週間視聴時間 2022年8月・日本 六本木クラス(1位まで上昇)
上半期の視聴時間 2026年1〜6月・全世界 梨泰院クラス(15.3倍)

どれも本当の数字です。嘘は1つもありません。期間と範囲を変えただけで、勝っている側が入れ替わります。

これは、順位というものを扱うときにいちばん気をつけたい部分です。「◯◯が1位」という見出しを見たら、いつの・どこの・何で測った1位なのかを確かめる。ここを飛ばすと、同じ事実から正反対の結論を作れてしまいます。

「1位」には、いつ・どこで・何で測ったかが必ず付いている。付いていない順位は読めない

それでも、尺の話は残る

もうひとつ気になる数字があります。総尺です。

『梨泰院クラス』は18時間26分、『六本木クラス』は10時間28分。リメイクで4割以上短くなっています

これは日本の連続ドラマの枠に合わせた結果です。日本の民放は1クール10話前後、1話45分前後。韓国は16話で1話70分前後が長く標準でした。

視聴「時間」で並ぶランキングでは、この差はそのまま効きます。同じ人数が最後まで見ても、尺が4割短ければ視聴時間も4割少なくなる。

自前集計での平均総尺は、日本語シリーズが7時間02分、韓国語シリーズが13時間57分でした。ちょうど2倍の差です。

ただし、この不利は消えかけています。韓国ドラマの総尺の中央値を、Netflixでの配信年ごとに並べるとこうなります。

韓国ドラマの総尺の中央値(Netflix配信年別)
2019: 16.8時間16.8時間20192020: 16.9時間20202021: 16.1時間20212022: 14.1時間20222023: 12.7時間20232024: 8.5時間8.5時間20242025: 13.1時間20252026: 10.7時間10.7時間2026

2019 16.8時間 / 2020 16.9時間 / 2021 16.1時間 / 2022 14.1時間 / 2023 12.7時間 / 2024 8.5時間 / 2025 13.1時間 / 2026 10.7時間

2019年は16時間49分でした。2026年上半期は10時間41分です。7年で36%短くなっています。

ここで『六本木クラス』の総尺を思い出してください。10時間28分です。 いまの韓国ドラマの中央値と、ほとんど同じ長さになっています。

つまり「日本のドラマは短いから不利」という説明は、2020年代前半までの話になりつつあります。韓国のほうが日本の尺に寄ってきた。残る差は、尺ではなく世界の棚に出るかどうかのほうです。

尺の差は縮んでいる。残っているのは「世界配信されるかどうか」の差

ここから先は私の見立てです

リメイクという形式そのものが弱いとは思っていません。『梨泰院クラス』の骨格――理不尽に潰された若者が、店を一軒ずつ広げて復讐する――は、国を選ばずに機能する話です。

ただ、リメイクには構造上の不利が二つあります。

ひとつは、世界の棚に置かれにくいこと。 原作が世界配信されている作品のリメイクは、権利の整理が国内向けに閉じやすい。結果として、いちばん大きな市場に出ないまま終わります。

もうひとつは、原作を見た人が比較対象になること。 『梨泰院クラス』は上半期だけで90万の視聴数があります。この人たちは、リメイクを見るとき必ず比べます。新規の物語として受け取ってもらえない。

日本がリメイクで勝負するなら、原作が世界配信されていない作品を選ぶか、リメイク自体を最初から世界配信の前提で設計するか、どちらかが要ると思っています。

ここで数字を一段深く読む

15分の1という比率は強い言葉ですが、作品評価を15分の1にする数字ではありません。配信地域、総尺、公開からの時間、原作を先に見た人の存在が一つの値に重なっています。数字の大きさより、何が分母に入っているかを見る必要があります。

ここで大切なのは、配信範囲と視聴時間の差を一つの数字だけで断定しないことです。視聴時間は、人が作品に触れた総量を知るには便利ですが、満足度や完走率、作品を好きになった人数を直接表すものではありません。順位も同じで、比較対象と期間が変われば意味が変わります。この記事で挙げた数字は、作品を採点する答えではなく、何が起きたのかを考える手がかりです。

『六本木クラス』と『梨泰院クラス』についても、「多いから成功」「少ないから失敗」と二択にすると、いちばん面白い部分が消えてしまいます。まず配信された範囲を確認し、次に公開時期と総尺を見て、最後に同じ条件の作品と比べる。この順番なら、数字の印象に引っ張られにくくなります。反対に、条件をそろえないまま大きな作品と小さな作品を並べると、配信規模の差を作品の質の差だと誤読してしまいます。

読者の立場で確かめられること

専門的な集計をしなくても、見る側にできる確認はあります。作品名と一緒に語られる数字を見たら、「いつの集計か」「日本だけか世界全体か」「時間か視聴数か」の三つを確かめてください。三つのうち一つでも曖昧なら、その数字は結論ではなく途中経過です。

もう一つは、『六本木クラス』と『梨泰院クラス』を単独で見ないことです。前後に公開された作品、同じシリーズ、同じ作り手の作品へ視野を広げると、一本では見えなかった流れが出ます。新作が旧作を押し上げることもあれば、旧作の評判が新作の初速を支えることもあります。配信サービスでは作品が放送終了と同時に消えず、棚に残り続けるため、この相互作用が長く続きます。

私が数字を数え直すときも、最初に抱いた印象と、条件を確認した後の結論が同じとは限りません。大きな倍率や順位は見出しにしやすい一方で、本当に持ち帰るべきなのは、その数字が生まれた仕組みです。この記事で配信範囲と視聴時間の差に焦点を当てたのも、作品を持ち上げたり下げたりするためではなく、同じ数字から雑な結論を作らないためです。

この作品から次に見たいもの

今後を見るときは、公開直後の最高順位だけでなく、数週間後、数か月後にどれだけ残るかにも注目したいところです。一度大きく跳ねる作品と、長く選ばれ続ける作品は、どちらも強い。ただし強さの種類が違います。短期の話題性と長期の持続性を分けて追うと、『六本木クラス』と『梨泰院クラス』の位置づけがよりはっきりします。

そして、次の公式データが出たときに今回と同じ条件で比べること。新しい数字だけを眺めるのではなく、今回の値を基準点として変化を見ることで、推測が検証に変わります。あなたは作品を見るとき、公開直後の話題を重視しますか。それとも、時間がたっても残る評判を重視しますか。

まとめ

  • 上半期、『梨泰院クラス』1,680万時間に対して『六本木クラス』110万時間。15.3倍の差
  • ただし『梨泰院クラス』は全地域配信、『六本木クラス』は違う。同じ土俵ではない
  • 日本語シリーズで世界配信されているのは16%(韓国語は43%)。『六本木クラス』は多数派の側
  • 総尺は18時間26分→10時間28分で4割減。視聴時間で並ぶ数字には不利に働く
  • 見立てとして、リメイクの不利は「世界の棚に出ない」ことと「必ず比べられる」ことの二つ
  • 物差しを変えると勝敗は逆になる。日本の週間順位では六本木クラスが勝っていた
  • 韓国ドラマの総尺の中央値は10時間41分まで縮んだ。六本木クラスの10時間28分とほぼ同じ

あなたが「1位」という言葉を見たとき、いつの・どこの・何の1位か確かめていますか。この2本は、その確かめ方の練習にちょうどいい題材です。

数字の出典

  • 両作品の視聴時間・総尺・視聴数・全地域配信の区分、言語別の本数と世界配信の割合、平均総尺、韓国ドラマの総尺の中央値 — Netflix「What We Watched」2026年上半期レポート(公開されているデータ一覧を当ブログで全数集計)
  • 2022年の日本国内の順位(今日のTV番組TOP10・週間視聴時間) — 当ブログの前回の記事

15.3倍・9倍・4割減は、上の表の数字からこちらで割って出しました。視聴数=視聴時間÷総尺で、人数ではありません。

Netflix「What We Watched」2026年上半期レポート(公式ページ)


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